プライヴェイトで知人に遭遇する確率と、ミックスナッツ中のカシューナッツの含有率に関する、考古学的検証と偽証。

 近所に、とあるスーパーマーケットがある。シメジ達が扱った商品もズラリと並んでいる、つか安物は大抵そうである、庶民的なスーパーだ。隣接して同規模のライバル店スーパーもあるのだが、そちらより2割ほど安値感が強く(2割安い訳では無い)、2割ほど低品質感が漂う、まっこと庶民的な店だ。

 買物で高級・高品質の商品を求めないシメジは、週に3回くらいはそのスーパーで買物をしている。もともと安いだけで無く、夕刻過ぎに割引シールが張られる時の割引率が、他店より大きいのだ(他は2割引でもここは半額だったり)。あと、隣接してゲーセンがあるので適度に暇潰しが出来るのと、入口にある花屋に「はなちゃん」が居るのが(11/8の雑記参照)、そのスーパーを選ぶ理由だ。

 最近、そこでよく知人に逢う。所長に逢ったし、職場の上官・同僚は現在辺境に居る7名中5名に逢った。取引先の人にもよく逢うし、現場でたまに見掛ける顔は知ってるが名前は知らない人、どっかで逢った事があると思われるが何処で逢ったか定かじゃない人、実によく逢う。

 こないだは警察の課長代理に逢い、「今度の呑み会楽しみにしてるよ」的な事を言われたのだが、彼の買物カゴの中は呑み会の食材と酒で一杯だった。更に彼の顔は日に日に酒焼けが酷くなって来ている。普段の喋りもロレツが回らなくなって来ている気がする。自分の20年後の姿を見ているようで心苦しい。



 そして、昨日。

 珍しく仕事が早く終わり、ぶらりとゲーセンに立ち寄って一勝負し(アンド惨敗し)、晩飯の食材を求めてスーパーに入店した。すると、卵のコーナーのところで、後輩のF新兵を発見。携帯を取り出し盗撮(何やってんだオレ)。当然ながら気付かれ会話を交わすと、たじ坊兵長海猿のボスにも逢ったらしい。

 F新兵と別れ、シメジも何か買い込もうとしていると、入口にはマグナム上等兵が、まさに入店せんとしている。慌ててF新兵のもとに駆け寄り、「マグナム上等兵が来たッ」的な報告をし、「マジっすかぁ〜!」と予想通りの返答を受ける。

 何故かマグナム上等兵にと顔を合わせないように、コソコソと逃げ回るシメジ。商品棚を巧みに利用し、隙間から覗いて上等兵の位置を把握しつつも正対しないよう努める。すれ違う時は棚越しで気付かれないように。それが出来ない場合は素早く走り抜ける。

 なんてやってる意味が自分でも解らなくなり、まぁいーやっと買物を再開。牛乳を選んでいると、背後に上等兵が立ち寄って来たのを察知。声を掛けられるかと思ったら、素通りして行った。うむ。



 翌朝である今日の始業前は、当然ながらその話。

 たじ坊兵長に、「昨日は○○○○(スーパーの店名)に居たっしょ」と言うと、「あぁ行った行った、Fもおったぞ」。Fは、「兵長のカゴの中、カップラーメンばっかりでwww」。兵長「おうっ、ラーメンばっかり10個くらい買った。レジのオバちゃんの袋に入れる入れ方が何となく雑だった」。シメジ「ラーメンと酒ばっかですか?」。兵長「いや、発泡酒買おうと思ったらFが後ろに来たけん、買えんかったやねーかッ!」。シメジ「……買えばいーじゃないッスか」。



 まぁ確かに、知人と逢って買物カゴの中身を見られた時に、中がインスタント食品や出来合いの惣菜や酒ばっかりで溢れていると、どうにも気まずいものだろう。安売りのシールが張られたものも、あまり見られたくはない。



 そう言えば、昨年の11月までシメジ達と同じ雑居ビルに入居していたとある会社のロボコップ所長は、夕方に半額になった弁当を2つ3つ買い込み、その日の夕飯と翌日の昼飯(朝飯も?)にしていたらしい。毎日、半額シールが張られた前日に作られた弁当を持って出勤していたのだ。以前、スーパーで半額シールの張られた惣菜がどんなんか見ようと手を伸ばすと、同じ品を狙って手を伸ばした横の人とビーチフラッグ状態になった事があった。その時、ライバルとなったのが、そのロボコップ所長だった。シメジは惣菜をロボコップ所長に譲るとともに、安売り商品を手にする時は周囲の警戒を怠らないよう心に誓った。



 そもそも、田舎も田舎の辺境である。海と畜産以外に何も無いような街である。そんな辺境で、シメジはもう1年半以上も働いている。知人も増えたし、携帯電話も関連会社や取引先で溢れるようになった。田舎だけに買物をする店は限られているし、就業後の時刻に買物に行けば、知人に出逢うのも当然と言えば当然だ。気を付けねばなるまい。





 そして今日。



 またそのスーパーに行くと、また取引先のおっさんに逢った。この人、毎日顔を合わせているのだが、3日に1回くらいは会話を交わしているのだが、名前も知らない。挨拶を交わしてやり過ごす。

 野菜コーナーに向かうと、大根が安い。品物も悪くない。最も新鮮感・重量感・色艶・形・放つオーラ(生産者の想いめいたもの)が優れた1本を手にする。

 大体シメジは、買物する時、最初は買物カゴを取らない。気に入った商品が無かった場合、買物をやめるか別の店に行くかするからだ。2、3の商品をカゴに入れた後でも結構商品を戻して店を移ったりする。

 この時も、まだ買物カゴを持っていない状態。とりあえず大根はキープし、他の商品の様子を見てから買うか買わないか判断する作戦。他の商品が良くなかったら、大根だけあっても仕方無いし。



 と、店内をグルグル回っていると、ヨーグルトやプリン、デザート類のコーナーに、スカーレット女史を発見。職場で逢うと必ず会話を交わす友人なのだが、最近はあまり見掛けなくなっていた。これよしと声を掛ける。

 シメジ「こんちわー」。スカーレット女史「あ、シメジさん、お疲れ様です」。

 隣のオバちゃんが、何か変な顔でこっちを見る。何じゃいオバちゃん。スカーレット女史「あ、コレ、ウチの母なんですよ。ホラお母さん、防人の人。」オバちゃん改めお母様「あらぁ、お世話になっております」。スカーレット女史は、4月に防人の上官のマグナム上等兵との結婚が決まっているのだ。

 スカーレット女史「シメジさんは、料理とかよくやるんよー。ですよねぇ、シメジさん」。

 ……しまった、以前に自作弁当を喰ってるところを見られ、「弁当くらい自分で作れやぁ」なんて言った事を憶えているのだろうか。それとも、上等兵の家ですき焼きパーティーやった時に、偉そうに料理を仕切っていたのを憶えているのだろうか。最近は面倒になって手の込んだ料理はあまりやってないんだがなぁ。弁当も週に2回くらいしか持って行ってないし。

 お母様「あぁ、そうみたいねェ。大根持ってwww」。

 ……。ン?

 しまったぁ、大根を裸のまま持った状態で、会話に移行してしまったぁ!



 慌ててカゴを取ると、大根を放り込んで苦笑い。会釈して立ち去った。うむ、変な姿を見られてしまった。



 これからは、カゴはちゃんと持つようにしよー。





 因みに、無茶苦茶「料理名人」みたいな紹介の仕方をされてしまったシメジはこの後、彼女が見ている訳でも無いのだが、鮭だ白菜だ蒟蒻だと買い込み、「鮭の粕汁」等と云う「料理名人」っぽい(?)ものを作り、焼酎を煽る事になる。