本日は、両親及び姉上が訪れることになっている。何でも、姉上の大学時代の友人が宮崎で結婚式を挙げるのでそのついでにオレが居る辺境にも脚を伸ばそう、ならばついでに父上と母上も一緒に来よう、てな経緯らしい。ついでって、宮崎から辺境までは2時間掛かるぞ。まぁ色んな口実で、近所のしがらみとか家庭内のいざこざとか、そんなんが渦巻く阿蘇から脱出したかったんだろう。
 来るのは構わないとして、それまでの間に、部屋をある程度片付けねばならない。前回来た時は、家族掛かりで家の中を片っ端から清掃し、それだけで半日を費やした。わざわざ息子のところに遊びに来た家族にそんな事をさせるのは申し訳無いし(家族は掃除も楽しみで来たと言っていたが)、家の中を掻き回されるオレも良い気分では無い(アレとかコレとか持ち出されても困るし)。
 片付けをするとして、問題となるのはゴミ出し。この町は無闇矢鱈とゴミに五月蝿く、30種類以上に分類せねばならない。日常よく出るプラスチックトレイや空き缶はちょくちょく捨てているのだが、忘れている(忘れているフリをしている)ものが2つある。それが、空き瓶と生ゴミである。
 空き瓶は、晩酌で呑んだ焼酎瓶が殆ど、と言うか全てである。そもそも嵩張る代物であるし、綺麗に洗浄せねばならなかったり色毎に分別せねばならなかったりラベルや蓋の扱いが面倒だったりして、ついつい先延ばしにして来た。半畳スペースの物置の奥に押し込んでいた。しかし、そろそろ捨てねばならない。
 採った策は、酒屋に持参し回収して貰うというもの。割とノーマル。だが、町の回収よりはやかましくないし、瓶代としてカネも貰える。
 愛車・イプ公と物置を往復する事20分、漸く全てを積み込んだ。酒屋に向かい、瓶を回収して貰いたい旨を説明する。おっちゃん面倒臭そうに出て来る。オレ瓶を卸す。おっちゃん瓶を並べる。オレ次々に卸す。おっちゃん驚愕する。オレまだまだ卸す。おっちゃん呆れる。
 結局、瓶を全て回収してもらい、¥340を手にした。何本回収して貰ったかは謎のままにしておきたい。
 次に、生ゴミ。オレは基本的に生ゴミが殆ど出ないくらいに肉も魚も野菜も全ての部分を喰い尽くすので、そもそも生ゴミは少ない。肉の骨も魚の頭も野菜の芯も、全て平らげる。出た場合、ベランダに置いたバケツに放り込んでおく。腐る代物なのでこまめに回収に出すべきだが、出る量が少ないのと、バケツはベランダに置かれている為に、ついつい忘れてしまう。だが、これも棄てねば。
 周囲が暗くなって来たのを見計らって、ゴミ捨て場にバケツを持って行く。大型の水色ポリバケツに生ゴミを放り込む。だがこれがまた臭い。先人の投入した生ゴミは、一体いつ回収されているのだろうか?1か月分くらい溜まっているのでは無かろうか?強烈な発酵臭に嘔吐感がこみ上げて来る。
 だが此処で問題が。オレの生ゴミバケツは、2週間分くらいの生ゴミが溜まっていた為に、底の方の玉葱の皮がちょっとドロッとなった上に乾燥し、こびり付いている。全く取れない。バケツを振り回しても底を叩いても取れない。
 今一つ解らないのだが、家にこのままバケツを持ち帰り底の生ゴミを落とすとして、その手段が無い。ティッシュ等で拭くと、その拭いた紙は何ゴミになるのか解らない。生ゴミには紙やプラスチック等の異物混入は許されないし、紙ゴミは汚れていたら回収してくれない。この町には「可燃ゴミ」なる概念が存在しないのだ。水で洗い流すとしても、流されたブツはやはり生ゴミとして棄てねばならないから、結果的にまた生ゴミ置き場に向かわねばならない。
 仕方無いので、宿舎の周囲に生えているススキその他の乾燥した雑草を引き抜き、その場でバケツを拭く事にした。おぉ〜ッ、綺麗になるもんだ。んで、拭いた雑草は、その辺に撒き散らした。……だって、棄てたのは雑草(生ゴミ付着)であり、全て有機物であって自然に還るモノなのだ。撒いたところから美しい極楽鳥花なんかが咲き綻ぶようになるかも知れない(人面魚花あたりが妥当)。
 んで、ススキを引き抜いてはバケツを拭き放り投げ、引き抜いては拭いて放り、引き抜いて……と繰り返していたら。
 同じ宿舎の奥さんにその光景を見られていた。
 彼岸の夕暮れ、西の空が紅く染まり、薄暮の空からはシリウスが顔を覗かせる頃。まだ冬の気配を残した冷風が時折吹き抜けて行く中、バケツと雑草を手に奇怪な行動を繰り返す三白眼の中年男性。……って、誰が中年やねん。
 あの奥さんがいつもより5割増しの早足だったのは、きっと風が冷たく早く暖かい家に帰りたかったからに違いない。