多忙な毎日と山積みになる書類とピヨピヨな我が知能とAu-Cu的固溶強化の堀田教授的人材育成術と

 今週は、とんでもなく忙しかった。



 大体、月頭ってだけで忙しいのは、社会人になってから毎月の事である。だから覚悟もしていたし、それなりの心構えも、物理的準備も整えていた。だが、それだけでは無かった。

 まず、人員的に大きな欠乏を来たしていた。語学の長期出張で1名、パソコンの1週間の研修で1名、執務の高等研修で部門リーダー1名が席を空けており、本来5人居るはずのシメジの部門が2名になっている。5人でやる仕事が2人である時点で、忙しいのは目に見えている。まぁとは言え、残っている先輩職員はこの部門にかけてはかなりのやり手であるし、この上官さえ居れば何とかなる。普段の2倍程度の仕事なら、呆けている時間を短縮する事で何とかなる。だが、それだけでは無かった。

 こんな時に限って、珍妙な来客や、管理過程での様々なトラブルが相次ぎ、しかも細かな事件が多発し、上官はそれに掛かりっ切りに。頼りにしていた上官は、トウモロコシなんかに構っているヒマは無い。

 となると、日常業務はオレ独りで捌き切らなければならない。繰り返すが、本来は5人居るはずで5人で捌いているはずの仕事が、オレ独りである。もう15年も働いているベテラン職員を筆頭にやっている仕事が、2年目のオレ単独でやり抜かねばならない。顔は老けているがまだまだ何も知らないオレが、あたかも管理職のような面をして職務に当たらねばならない。



 時折上官の手が空いたのを見計らって指示を仰ぎ、六法や各種参考資料を山積みにしつつ、遮二無二頑張って只管目の前の仕事を捌き続けた。だがやはり自分の現在の能力では限界があるらしく、机上には、取り敢えずの処理は終えたが印鑑押したり整理したりは手付かずの未済書類で溢れた。しかも、オレが単独で担当している仕事は全くやる暇が無い。

 こんな時、緊急事態だからといい加減に仕事をし、流れ作業的にハンコを押しまくっているのも、一つのやり方かも知れない。だけどそれでは、何の為に仕事をしているのか、何の為にこんな大量の任務を与えられているのか、解らなくなる。些事は兎も角、要点だけはしっかりと押さえるように意識しながら、目の前の仕事に励み続けた。

 定時を過ぎて嵐のような時間が終わると、漸く机の上の書類の整理に取り掛かり、続いてオレの担当している仕事をやり始める。黙々と机に向かう。





 考えてもみれば、これ程までに休憩する間も無く仕事をしたのは、初めてかも知れない。去年も今年も、部門は違ってもそれなりに忙しくドタバタ走り回っていたが、どんなに忙しくても半日で1回くらいはトイレに行ったりする暇が有った。だが今週は、それすら許して貰えなかった。飲み物で喉を潤す時間も無かった為に、退社する時には喉がカラカラだった。時間に追われるのも尋常な状態では無く、あと数秒でエラい事になるところだった仕事も多数有る。上官が不在だった為、常日頃なら上官がやっている筈の仕事も初めて経験し、慌てて資料を捲ったり書類と睨めっこしたりの毎日だった。



 もう少し自分も成長すれば、この程度の仕事は当たり前にこなせるようになるのだろうか。時間に追われる事も、対応に困る事も、書類の山を築く事も、精神的に一杯一杯になる事も無くなるのだろうか。

 昨年9月上旬、新入社員として初任地で執務にアップアップしている頃、直上の上官が夏季休暇を取った数日間を、オレは一つの自分への試練として捕らえた。全てを自分でやり抜かねばならない数日間を無難に乗り切れば、オレもその部門の日常業務は、一人前とは言わずとも八分の五人前くらいはやれるようになる筈だ、そう信じて。

 この一週間も、オレに与えられた一つの試練だったのだろうか。これから35年続く仕事の毎日で苦労が減るよう、オレを成長させるべく何者かが課したノルマだったのだろうか。





 何はともあれ、この難局だった一週間も無事に終わった。来週は、もっとヒマだといーな。