祝う気持ちは人一倍なのだが表現する手段を色々と間違った気もする結婚式。

 先の2日は、職場の上官の結婚式だった。いやぁ、疲れた疲れた。その顛末を記したいとは思うのだが、疲れの発端となった1日の前日打ち合わせから始めたいと思う。
 職場の面子に対して披露宴の招待状が手渡された時点で、当日の余興は依頼されていた。それが1月だったか。だが、ギリギリまで行動を起こさなかった為に、何の準備も無いまま結婚式直前となってしまった。
 演目については何とか決まった。それは、「新郎たる上官が、職場の窓口を通して新婦と出逢い、恋に落ち付き合い始め、それまでファッションや小物には一切の興味を持たなかったのが一変し、しかしそれを周囲にひた隠しにしようとし、だが隠し切れずにバレて行く」たるストーリーの劇である。オレもそんな感じの出し物が良いと思っていたし、それ以外だとウチの職場では「ブリーフ1枚で股間に長風船を突き出しダンス」「フンドシ1枚でダンス」とかなので、まぁベストと言うよりベターかなぁ的な発想で合意したのだ。
 ……だが、まさかオレが新婦役を演じねばならないとは。
 1日は、それ等の詳細の打ち合わせ(配役決定、台本作成、声合わせ)だった。だが、「披露宴の本番では酒が入った状態でやるのだから、出来るだけ本番に近い状態を想定し、酒が入った状態で打ち合わせよう」というのは、如何なものだろうか。これは、台本を起稿し、余興を主導し、打ち合わせ会場として自宅を提供した上官が、単に酒を呑んで騒ぎたかっただけなのでは無いだろうか?
 仕事を終え、スーパーで買って来た酒と飯を囲み、一堂で乾杯。ワイワイと騒ぎ、酒を呑み、焼き鳥やポテトサラダ等を喰い、また酒を呑み、野球中継を観てまた酒を呑み、……一体いつになったら打ち合わせを始めるのだろう?
 本格的に開始したのは、野球中継が終わった辺りだから、呑み出してから1時間半ほど経った頃。その時にはもう麦酒2ダースと焼酎半升が空いており、当然みな酔って来ている。まぁ適度なハイテンションとも言えるが、冷静な判断を下せる状態で無いのは事実。とりあえず配役を決め、台本を流してみる。新郎の役を演じる新郎の同期たる上官がなかなかの好演を見せてくれ、素人の演劇としてはなかなかのものが出来そうだ。……与えられた時間は5分間なのに、トータル16分も掛かってしまったが。
 皆で台本をチェックし、削れる部分を徹底して削る。だが、案外これが難しい。論文でも報告書でも、短くする方が長くするより難しいものではあるが、台本も然りだったようだ。無駄に見える部分でも細かなオチを挟んであったり後に繋がる布石だったりするので易々とは削れないのだ。それでもナレーションを中心に削りまくり、何とか12分に。12分!?
……まだ7分もオーバーかよ。
 結局1時まで掛かって色々とやっていたのだが、終盤はもう酒が入り過ぎてグダグダ。演劇どころの話では無くなり、1人、また1人と睡魔に襲われダウン。翌日は確実に二日酔いであろうなぁという致命的なミスを犯し、打ち合わせは終わった。
 2日、結婚式当日。車に乗り合わせ、個人的事情がある者は単独で、結婚式会場であるホテルに向かう。……みな昨夜の酒と疲れが残ってる。ヤバい。
 我々は式場での受付も依頼されていたので、設けられたカウンターに座り、粛々と受付をこなして行く。だが、カウンターの下では台本チェック。特に台詞の多い新郎役は大変だ。台本通り覚えようにも覚え切れないので、流れだけを把握し現場のアドリブで対処する作戦に。……昨夜の打ち合わせは何だったのだろう?
 挙式を終え、披露宴開始。新郎新婦が入場し、祝辞、乾杯が続き、余興の時間が迫って来る。だがおかしい。「15分前にスタッフの方が知らせに来る」筈だったのだが、明らかに順番が近いと思われるのに、誰も来ない。もしや忘れてるのでは?と思ったが、先方もプロであるからそんな事はあるまいと信じていたら、やっぱり忘れていた。いきなり「ハイッ、新郎の職場の仲間による出し物です!」と言われても、何の準備も出来ていない。オレはそこから僅かな時間で女装せねばならぬのか。慌てて胸を膨らませ、スカート状のモノを腰に巻き付ける。
 スタッフの機転か、先に新婦側の友人が唄を歌い始めた。その間にみな会場内に入り、舞台袖のツイタテの陰に隠れる。だが、オレは女装しているために、明るい中で会場に入る事が出来ない。扉の外で独り、女装した怪しい姿のまま、会場が暗転するのを待つ。するとトイレに立った出席者が扉を開け外に出て来た。そこには不気味な姿の人物が。おっちゃん、心臓が止まりそうな顔をしていた。
 オレの出番が近付き、闇に紛れて会場内に飛び込む。オレの出番が来た。舞台に飛び出す。オレを知ってる新郎側の出席者の爆笑と、可愛い智ちゃんの晴れ姿を涙ながらに見守って来た新婦側の出席者のどよめき、悲鳴、驚愕。嵐の中出番を終え、舞台袖に下がった。もう女装なんてすまい。やれやれ、やっと終わった。
 すると、ここでハプニング発生。演目の順序が変わったり時間が押してしまったりした関係で、新郎も新婦もキャンドルサービスの準備の為に会場から出ており、新郎新婦不在のままの出し物である事が判明。一体何の為にやっているのか判らない状況。それに、出し物の最後は、新郎を巻き込んで「乗船許可証授与」たる伝統の儀式を催す予定だったのだ。それなのに渡す相手の新郎が居ない。仕方無いので新郎役をやっていた上官がそのまま受け取る事に。だがそれだけでは締まらないので、新婦も一緒にと、またオレが舞台上に担ぎ上げられる。トホホだよ。
 新郎役と並び、乗船許可証を受け取る。「乗船許可証」とは、新郎たる航海士に対し、新婦たる船舶への乗船を許可するもの。ここで言う「乗船」とは、まぁそのつまり、そのままの意味なワケで、完全なる下ネタ。「○○丸は処女航海であるから周到なる準備を施した後に乗船すること」「○○丸以外への乗船は固くこれを禁ず」「可能な限り毎日乗船すること、但し月に一度は必ず故障するため、その間は乗船しないこと」など等、新郎側の歓声と新婦側の悲鳴を喚起するに足る内容。それを、オレは気持ち悪い姿で受け取るのだ。新郎役の上官に「ちょっと胸を揉んで下さい」と耳打ちすると、授与の儀式の間ずっとチチを揉まれ続けた。気持ち悪さ倍増。最後に「赤マムシドリンク」を受け取り、悪夢のような演目は終了した。
 新郎側にはそれなりにウケたようなのでまずまずなのだろうが、他の出し物が見事な太鼓だったり可憐なダンスだったりした中で、1組だけふざけ切った演目だったので、より一層「やってもうた」感が強まってしまった。新婦側の出席者は、あの可愛かった智ちゃんが結婚した相手について、本当に大丈夫かよと一同懐疑の念を抱いた事だろう。
 兎にも角にも、披露宴での役目は終えた。次は、二次会だ。
 披露宴では、またも職場の面子が様々な役割を分担し取り仕切ることに。オレはカメラ担当に。披露宴と違い二次会ではプロの撮影係を依頼しないので、オレがビデオカメラを回し続けるのだ。まぁそれは右腕が痛くなるだけで別に構わないのだが。
 ……何だよこの一気呑み大会は。
 二次会の会場であるイタリアンカフェレストランは、新婦側の友人が用意したものらしい。従って、お洒落で高級感があり、我々がいつも呑んでいるような港の安居酒屋では無い。出て来るのはそれなりの値段がするワインだったりする。それを、次々に一気呑みで空にして行く新郎側の友人達。しまいには、ワインボトルを直接口に当て、1本丸ごと一気呑み。もう店長も唖然。……やらされたのはオレなのだが。
 続いて、三次会のカラオケへと突入。此処でも新郎の同期達が芸達者ぶりを発揮して盛り上がる。オレも何か唄えと言われて「シーソーゲーム」を唄ったが、結婚式の後の歌としてこれは相応しいものであったのか、ちょっと疑問だ。「恋なんて言わばエゴとエゴのシーソーゲーム」なのだ。まぁ、結婚式を間近にして新郎がマリッジブルーに陥っていた2人を思うと、案外ベストだったのかも。
 何だかんだで1日を終え、ビジネスホテルに戻って就寝、翌日また上官の車に乗り合わせて帰り、そこからまた仕事。うーん、ハードな週末だ。
 それにしても、今回で一番記憶に残っているのは、三次会で新婦の智ちゃんのブラがずっと見えてた事だ。白のレースだった。危うくマメまで見えそうだった。一生に一度の目出度い日に、そんなルーズな事で良いのか、智ちゃん!……有難う。
 色々とあったが、就職して最初の直属の上官であった新郎と、人の少ない田舎の港町における数少ない友人である新婦の、これからの輝かしい未来を祈ります。